Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2003.11.01過去のHana上演曲目「鵺」の解説

今回は11月9日九皐会で上演致します「鵺」についです。

「鵺」あまり見慣れない漢字ですが「ぬえ」と読みます。さてその鵺とはいかなるのもか、そこからお話を始めましょう。平家物語に拠りますと面は猿・手足は虎・胴体は狸・尾は蛇という獣の集合体です。鳴く声が鳥のトラツグミ(鵺)に似ているので、鵺と呼ばれているようです。この鵺は平安時代時の帝、近衛帝の命を狙った化け物です。そしてその重き罪ゆえに
源頼政
(
みなもとのよりまさ
)







に成敗され、その骸はうつほ舟(丸木をくりぬいて作った舟)に入れられ流されてしまいます。こんなことを踏まえながら本曲「鵺」を進めてまいりましょう。

諸国一見の僧(ワキ)が
摂津国
(
せっつのくに
)







蘆屋の里に着くと、日もすっかり暮れてしまいます。里人(アイ)に一夜の宿を所望したところ禁制のため断られ、教えられるまま洲崎の御堂で一夜を明かすことにします。やがて闇の中よりうつほ舟に乗った異様な舟人(前シテ)が現れます。(実際に舟は舞台上に出ませんが、手に一本の竹竿を持ちこれが舟のイメージを象徴します)。僧が名を尋ねると舟人は頼政に退治された鵺の亡心であると答え、回向を頼みます。そしてその時の有様を仕草交じりに見せ、語ります。やがて鵺は再びうつほ舟に乗り、夜の中へと消え失せます。<中入>

僧が読経していると、忌まわしい姿の鵺がその本体(後シテ)を現します。そして再び頼政に討たれた話を始めます。前半では討った頼政の視点で、後半は討たれた鵺の視点でこの出来事は語られます。討った頼政はその手柄により獅子王という御剣を賜り、その折りにさえずるホトトギスの声を聞いた大臣が

 『ほととぎす 名をも雲井に あぐるかな』

と読んだ上の句に

 『弓張り月の い(射)るに任せて』

と下の句をつけたため、頼政は文武両道で名を挙げる事になるのです。しかし鵺は名もなく行き先もないまま、うつほ舟に押し入れられ闇に流されます。この世でもあの世でも闇の中にしか存在できなかった鵺、その魂は山の端を照らす月光に光明を願いつつ消え失せるのでした。

こうして文章にしてみますと、とても暗い感じがしますが、後半は激しい動きで初心者の方でも見やすいのではないかと思います。秋の一日を能楽堂で過ごすのは如何でしょうか、お待ちしております。

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