Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2004.06.06過去のHana上演曲目「蘆刈」の解説

蘆刈[あしかり]」についてご案内申し上げます。

零落した夫婦が貧苦のあまりに別れ、それぞれに別の道を歩みます。妻(ツレ)の方は都でさる大きな屋敷の乳母となり、立身出世をします。三年の月日が経ち妻はお供の者を連れ、夫婦が昔住んでいた難波の浦へ夫(シテ)を訪ねてやって来ます。夫は行方知れずになっていましたが、妻は暫く逗留し夫の行方を捜すことにします。

夫はその後暮らし向きにも変わりなく蘆売りに身をやつし、難波の浦へとやって来ます。夫は蘆を刈る貧しい身を嘆きつつ、行き合った妻の従者(ワキ)へそれとは知らず蘆を売りに行くのでした。難波の浦の謂れを語り、笠尽くしの芸能(笠の段)を見せていると蘆を一本所望されます。夫が蘆を持ち妻の前へ行った時二人はお互いを認めます。今の姿に恥じて身を隠す夫に妻は一人で夫の元へ行きます。二人はお互いに和歌を詠みあい三年の月日も変わらなかった心を確かめ合うのでした。やがて夫は
烏帽子[えぼし]直垂[ひたたれ]を身につけ(武士の正装)、和歌の徳を称え、祝言の舞を舞い、夫婦ともに連れ立って都へ帰るのでした。

前半は一般庶民の暮らしと軽妙な俗謡舞踊で展開し、後半は和歌の徳を称え舞を舞う嗜みのある武士となります。前後半共にそれぞれに見所の多い芸尽くしの能です。このお能は現在物と申しまして、生きている人が現在進行形の形で劇を進めていきます。場面転換もはっきりしているため内容は解りやすく、能にあまり親しみのない方もお楽しみいただけるかと思います。妻(女性役)以外の出演者は
直面[ひためん]といって、面をつけず素顔のまま舞台に出ますのも現在物の特徴です。出典の「大和物語」の内容から結末の変更をし夫婦愛をテーマにした能に仕上げのが「蘆刈」です。

カテゴリー

バックナンバー