Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2004.02.25過去のHana上演曲目「海士」の解説

日差しが和らぎ春らしくなって来ました。この度は、三月の九皐会で舞わせて戴きます「海士[あま]」のご案内です。それでは早速「海士」のお話を始めましょう。

藤原房前[ふじわらのふさざき](子方)は母の追善供養のため讃岐[さぬき]の国(香川県)志度[しど]の浦へ訪れます。房前はそこで一人の海士(前シテ)と出会い、かつてここで起こった壮絶な出来事を目の当たりにします。房前の父藤原不比等[ふじわらふひと](淡海公[たんかいこう])は、妹后伯女[こうはくにょ]が唐皇帝の妃となった縁で、唐より三つの宝を送られます。華原聲[かげんけい]泗濱石[しひんせき]面向不背[めんこうふはい][たま]、このうち面向不背の珠が龍宮へ奪われてしまいます。

淡海公は奪回すべくこの地に下り、一人の海士と結ばれ子を儲けます。海士は淡海公よりこの浦へ訪れたわけを聞かされ、一つの約束を願います。明珠奪回に成功した暁にはこの子を世継にしてほしいと、海士は知っていました。龍宮へ珠を取り返しに行けば生きて帰れないことを。淡海公は承諾し、海士は綱を腰に巻きつけ合図と共に引き上げてくれるように頼み、海中へ飛び込みます。龍宮の警固を見た海士は助からない命を改めて思い、別れなくてはいけない淡海公や息子を思い、ひるみ、嘆き、悲しむのですが、意を決して龍宮へと飛び込みます。珠を取り返し龍宮の追っ手から逃れるために、海士は自らの乳の下をかき切り珠を押し込め合図します。引き上げられた海士は血に染まり、絶え絶えの息で乳の下に入れた珠の事を教えます。そして房前は約束通り後継者となり、大臣の位に就きます。命を懸けた母の「愛」とそれにこたえた父の「誠」を知り、房前は母の追善供養を行います。母はやがて龍女(後シテ)となり、その成仏した姿を現すのでした。

ストーリーは大変解りやすく、龍宮へ珠を取り返しに行く
[くだり](玉の段)は、「玉取り」などの名で他の芸能にも数多く取り入れられています。面向不背と言われる珠は、どこから拝んでも玉中の釈迦像は正面を向いて見えるのが名前の由来です。現在は竹生島の宝厳寺[ほうげんじ]に奉納されているようです。

観世九皐会3月定例

能「竹生島」「海士」狂言「二九十八」他仕舞
平成16年3月14日(日)午後1時始まり
矢来能楽堂(新宿区矢来町60番)

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