Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2006.12.21過去のHana上演曲目「葛城」の解説

1月13日(土)「能を知る会」鎌倉公演で「葛城[かずらき]
」を勤めさせて頂きます。今回はその葛城のお話です。

葛城山に幾度も入山し通い慣れた山伏(ワキ)一行でしたが、あまりの大雪に大層難儀をします。そこへ葛城山に住むという女(前シテ)が現れ山伏達に宿を貸します。女は山で集めた木々「

楚樹
[
しもと
]

」を焼いて山伏達をもてなします。

「楚樹結ふ 葛城山に降る雪は 間なく時なく思ほゆるかも」 

古今集の古歌の問答をしながらひと時を過ごします。体も暖まり


[

]



[

]

の勤めを始めようとする山伏に、女は「

三熱
[
さんねつ
]

の苦しみ」から救って欲しいと訴えます。神でなければある筈のない「三熱の苦しみ」という女を、山伏は不審に思い尋ねます。女は昔、


[
えん
]



行者
[
ぎょうじゃ
]

に言われた岩橋を掛けなかったために、その怒りをかい、蔦葛で身を戒められ、今も苦しんでいるのだと言います。そしてこの身を助けて欲しいと訴え消えます。<中入>

祈っている山伏の前に身を戒められた葛城の神(後シテ)が現れます。そしてとき放された喜びの舞を舞い、夜の明ける前に帰っていきます。

この能は少し変わった趣向になっています。神でありながら人間である役の行者に仕事を命じられ、なかなか完成しなかったために怒りをかい身を戒められてしまいます。その完成しなかった理由が自身の容貌を恥、人に見られない夜だけ仕事をしていたからなのです。鬼神をも使役したという行者ですが、神に仕事を命じる「人」と、容貌を恥じる「神」現代の私達には逆の関係のように思われます。そして行者の末流である山伏に救われるという不思議な因縁で幕を閉じます。

今回は「

大和
[
やまと
]



[
まい
]

」という特殊演出のため、舞台中央奥に置く作り物やシテがかぶる笠、背負う芝には雪を被せ白銀の世界を演出します。また後半の作り物から現れるシテの周りの柱には蔦葛が絡まり、戒められている女神姿が浮き彫りとなります。白銀の美しい世界に現れるのは美しい女神ではなくしこめの神、しこめの神が奏でる美しい「大和舞」。夜が明けて人目につく前に帰ってしまう女神の後に残るのは、月光に照らされた白銀の世界でした。

雪の葛城山を舞台に古代の「神」と「人」との隔たりがあまりない頃の、どこか牧歌的な、それでいてちょっとおしゃれな作品「葛城」。月光に照らされる銀世界の女神に会いにいらっしゃいませんか!

~能を知る会~   於:鎌倉能舞台
平成19年1月13日(土)午後の部:14時始まり

能『葛城 大和舞』
シテ(午後):奥川恒治
ワキ:森常好
アイ:遠藤博義
笛 :一噌隆之
小鼓:
鵜澤洋太郎
大鼓:柿原光博
太鼓: 観世元伯

解説「能装束」中森晶三
狂言「昆布売」山本則直

チケットは全席自由4,700円です。

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