Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2011.05.17過去のHana望月その一

早いもので5月も半ばを過ぎました6月26日には私の会を催します。本年の私の会のご案内方々、テーマなどお話を申し上げたいと存じます。

私は昨今人との「絆」や「縁」といったことをよく思います。意識的な行為で救われたり、力添えができたり、また思いもよらぬ偶然に感謝したり、されたり。二つの文字は人の世で考えてみますとどちらもそのつながり方を表しているように思います。
「絆」は人の意思が働いているもの、「強い絆で結ばれている」とか「絆を断つ」などと使われ、この度の会のテーマの一つとして絆を宿命としました。
「縁」は意思とは別に働いているもの「ご縁がある、ない」などと使われ、縁を運命と考えてみました。とても大まかなくくり方ですが、この二つが絡みあって人の世のつながりができているのだと思います。

「望月」では望月秋長が小沢友房を殺害したため、一家は離散し妻と子は逃げるように放浪し、家臣は素性を隠し宿屋の主になります。別れ別れになった一族主従、親子と家臣の再会は奇跡的なもので、切れることのない「絆」だったのでしょう。そこへ導かれたかのように現れる望月秋長。彼は殺害の罪のため都で13年にわたる訴訟が済み、自身への咎めが無く晴れて本国に帰る途次でした。ある日、この因縁の人たちが一つ所に集ったのは特別な意味を感じずにはいられません。

望月は殺人を犯しながらも罪に問われず、被害者家族は逃避生活を余儀なくされてしまうわけです。秋長がこのまま何ごともなく人生を全うできるとも思えませんし、友房の一族郎党も不遇のまま終わるのでは切ない。

友房の無念や残された者と友房との絆が秋長を呼び寄せたのでしょうか。それとも秋長の運命だったのでしょうか。いずれにせよ秋長の命運も尽きることになります。

「望月」は生きている人たちが繰り広げる人間ドラマです。シテは一曲を通してセリフのみで、そのため能独特の難解さはない変わりに幽玄といった趣もありません。現代的な芝居としてご覧いただける能と言えます。お楽しみ戴くために舞台進行と望月のストーリーにつきまして、知っているといないとでは格段に違います。その舞台進行とストーリーにつきまして順を追って次回ご案内申し上げたいと存じます。

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