Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2012.08.01過去のHana松風 その三

塩屋に戻ってきた松風村雨姉妹に、旅僧は一夜の宿を貸してほしいと願い出ます。姉妹は塩屋の内があまりにも見苦しいと断るのですが、出家の身ゆえと重ねて乞われ、宿を貸すのでした。
同じような場面が「屋島」という曲にありますが、かたや老人と若い男、「松風」は姉妹、自ずとその断り方にも柔らかさや情緒が滲みます。

旅僧は行平の歌の事や松風村雨姉妹の菩提を逆縁ながら弔った話しをしますと、二人の海士は泣き出します。そして行平の歌が懐かしいと、閻浮えんぶ
(死んだ人がこの世を言う時の言葉)の涙が流れると言うのでした。
不審に思う旅僧が二人に名のるように言いますと、二人はまさしく松風村雨姉妹の幽霊であると明かします。そして行平が船遊びをしていた事、夜汐を運ぶ乙女たちの中から二人は選ばれ、行平のそば近く仕えた事。三年の月日が経ち行平は都に戻り、ほどなく亡くなってしまった事を語ります。都に戻る時に残していった烏帽子、狩衣が恋慕の種となり、今もそれに責められ続けていると泣き伏すのでした。

松風の手には形見の烏帽子、狩衣があり、松風はその形見を見据えているのですが、やがて『これほど!』と思わせるほどの激情をほとばしらせます。
一つのピークを迎え、舞台の時間は一度止まります。

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