Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2005.12.02過去のHana上演曲目「野守」の解説

このたび明年二月国立能楽堂主催の催しで舞台を勤めさせて戴く運びとなりました。これも日頃ご支援賜ります皆様のおかげとご報告方々御礼申し上げる次第でございます。ありがとうございました。それでは早速ですが「野守(のもり)
」についてお話し申し上げます。

「野守」あまり聞きなれない言葉だと思いますが、これは「野を守る人」の意で、本曲の中では「野を守る鬼」でもあります。そして彼らが「使う」あるいは「持つ」物で「鏡」があるのですが、この鏡が重要な役割を果たしもう一つの主人公になります。「鏡」の神聖性は神社の御神体に鏡が安置されていることが珍しくないので、ご理解して戴きやすいのではないかと思います。この二つの点を踏まえて野守の物語を進めて参りましょう。

山伏(ワキ)が奈良の早春の春日野を訪れそこで一人の老人(前シテ)と出会います。山伏は春日野にある謂れありげな溜まり水の事を老人に尋ねます。老人は自分達が朝夕影を映すために「野守の鏡」と言われていると答え、また「真の野守の鏡」と言う物がありそれは昔鬼神の持っていた鏡だとも話します。そしてその鬼の住んでいた塚を見せるのでした。さらに山伏は「はし鷹の野守の鏡」と詠まれた歌の事を尋ねます。

「はし鷹の野守の鏡得てしがな思い思わずよそながら見む」(新古今和歌集)
(はし鷹がどこにいるか映し出したという野守の鏡を私も欲しいと思う。それがあればあの方が自分を思ってくれるのかどうかそっと映し出してみようものを。)

この歌はかつてこの地でみ狩があった折、鷹を見失ってしまいどこを探しても見つからなかった鷹を一人の野守が地を指して教えます。そこには水面に映る鷹の姿があったのです。この話をもとに後世の人はそんな見えない、わからないものを相手の心にたとえ恋の歌を詠んだのでしょう。老人の話を聞くにつれ山伏は鬼神の持つ鏡を見たいと望みます。しかし老人は鬼の姿を見たら恐れるであろうと言い残し、塚の中へ消えます。(中入)

塚の前で山伏が祈っていると鬼神(後シテ)が鏡を持って現れます。鬼神の持っていた鏡は地上世界を映すだけではなく、天上界、地獄界、森羅万象全てを映す鏡でした。鬼神はその奇特を見せ、大地を踏み鳴らして帰っていきます。

お忙しい折とは存じますが舞台に足をお運び戴けましたら幸いです。

~第15回若手能東京公演~

能 喜多流 花月 シテ 内田 成信
狂言 和泉流 悪坊 シテ 三宅 右矩
能 観世流 野守 シテ 奥川 恒治

日 時  平成18年2月4日(土)午後1時開演
場 所  国立能楽堂

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