2008年11月 旅 | 能のHana

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2008.11.07

前回のHana以降随分と色々なことがありました。10月4日、皆様には新聞等でご存知かと思いますが、観世松世奥様が他界されました。その少し前にお目に掛かりました時は、特別変わったご様子もなかったので、訃報に接した折は本当に驚きました。15人以上になる内弟子の面倒を見、育てたまさに九皐会の「母」という存在でした。私は内弟子に入る前からお世話になっていましたので、色々な思い出が尽きません。心からご冥福をお祈り申し上げる次第です。

10月14日から26日まではインドネシアに行って参りました。長旅になりましたが体調を崩すこともなく、舞台も無事に務めることができました。ジャカルタ・ソロ・バリと3箇所での公演で、劇場にとどまらず意欲的な場所での公演も試みられました。
ソロでは無理を承知でお願いして、念願のボロブドゥールへ行くことができました。片道2時間半の行程でしたので、往復5時間は夜の本公演を前にいささか心配もありましたが、思い切って行ってよかったです。そこには想像を絶するスケールの遺跡が存在しました。また、ワヤンオラン、スマラ・ラティ、バロンと多くの芸能に触れる機会を持てました。多くのものを見聞し、吸収し、より豊かな感性や知識を身に着けられたように思います。バリが一番長い滞在になりましたが、バリの人はとても気さくで、歩いていると「こんにちは」、「こんばんは」と良く声を掛けられました。そしてとても星の綺麗な夜空が印象的でした。

11月3日には坂真太郎君の道成寺がありました。もう3回忌になるかのと思いますが、真太郎君のお父様には子供の頃からお世話になり、私の子供も隅田川の子方させて戴いておりました。親子共々でお世話になっていたわけです。道成寺が無事に済み、お父様もホッとされていることでしょう。

11月5日には所沢で和太鼓公演「不二」に出演しました。「不二」とは大太鼓の名前で、個人所有では世界最大の大きさを誇る4尺3寸だそうです。音は腹に響く音。まるで打ち手の魂がぶつかってくるかのような、響きでした。この「不二」の響きは、時空を越えた旅に連れて行ってくれるのではないか、と思うほどでした。

今回は「旅」をテーマに書きました。旅には困難や危険もありますが、それ以上の出会いや、経験といったかけがえのない宝物を手に入れられるようです。下界からの旅立ちは、きっと旅先で今まで頑張った分の、ご褒美を戴いているのだろうと思います。心の置き所一つで、随分と気持ちが変わってくる。そんなことを改めて感じたいろいろな「旅」でした。

11月16日には3回目になります私の会を催します。「行かずして名所を知る」、能十五徳の中の言葉です。井筒は舞台上の出来事が「旅僧の夢」という形式をとる夢幻能で、旅僧はいわば皆さんの代表でもあります。ご覧戴きます皆様には、旅僧と供に素敵な旅を、そして私も何かを得られるような旅を舞台でできればと思っております。今年の1月からデザイン、製作してきました縫箔腰巻という装束の初使い、お披露目も致します。この装束は後シテの下半身部分に着付けられています。刺繍は日本の伝統工芸師さんにして戴き、とても素晴らしいものになりました。この腰巻も一見の価値があるのではないかと思います。ぜひ装束共々舞台を見にいらっしゃって下さい。お待ちしております。

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観世流能楽師 奥川恒治能のHana

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