Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2010.09.01過去のHana九皐会百周年記念公演最終回!

一昨年の五番能から始まりました、九皐会百周年記念公演も来月10月24日(日)の公演をもちまして最終回となります。秋の名曲を取り揃えての演目をご紹介申し上げます。

能「花筐」:奥川恒治・奥川恒成

狂言「萩大名」:野村萬
仕舞「弱法師」:駒瀬直也・「定家」:五木田三郎・「卒都婆小町」:観世喜之

能「融」小島英明

それでは私の上演曲の「花筐」につきまして、お話申し上げます。

武烈天皇の次の天皇として、越前の国味真野[あじまの](現在の福井県)に住む男大迹[おおあとべ]の皇子のもとに迎えが参ります。皇子は上洛にあたって、召使っていた照日[てるひ]の前(前シテ)に玉章[たまづさ](手紙)と花筐(花籠)を届けさせます。使者(ワキツレ)から渡された玉章には、ひとたび離れてもまた会える日が来るであろうとの歌が添えられていました。照日の前はその玉章と花筐を携え里へと帰って行くのでした。<中入>

場面は変わり男大迹の皇子は継体天皇となられ、紅葉の宴のため行幸されます。
また、照日の前(後シテ)は帝恋しさあまり供の女(ツレ)と共に都へ向かいます。二人は帝の行幸と遭い、列の前へと進み出てしまいます。不審に思う侍臣(ワキ)に咎められ、帝より戴いた花筐を打ち落とされてしまいます。心乱し一心不乱に旅をして来た照日の前は、花筐を打ち落とされ更に狂うのですが、帝からは舞を所望されます。照日の前は漢の孝武帝が李夫人に先立たれ悲しみのあまりに、反魂香[はんごんこう](魂が返る香)を焚いた故事を引き恋慕の情を訴えます。帝は照日の前が持っている花筐を見、それと気付き、再び照日の前を召し使うこととし、玉穂の都へと向かうのでした。

継体天皇は歴史上謎が多く残されている天皇です。皇位継承の使者の話を受け、すぐに快諾したわけではないようです。50歳を超える年齢に達していたことを考えますと、即位以前に生活の基盤ができていたことは想像に易く頷けます。即位後20年の歳月を経て玉穂の宮に入られたとあり、謎の時間も存在します。

ともあれ本曲は創作に彩られていまして、男大迹の皇子の在所は史実上坂井郡高向[たかむこ]であったり、照日の前が創作上の人物であったりします。皇位継承にまつわる話はさておき、慕っている人がある日手の届かない存在になってしまうものの、めぐり逢い再び結ばれると言った、奇跡の恋愛物語として格調高く作られています。女性の積極的な行動により自らの幸せを掴んでいく姿は、現代人にも広く受け入れられる物語と存じます。能動的なシンデレラと言ったところでしょうか!

次男恒成の継体天皇は恋慕の相手として、親としてはいささかしょっぱくもありますが、親子揃って九皐会100周年記念の最終公演を務めさせていただけますことは稀有の誉と存じます。

秋のひと時、能楽堂にお運びいただけましたら、幸いに存じます。

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