Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2013.04.09過去のHana「烏帽子折」を楽しもう!その3

夜が更け、静かに闇が覆い尽くす頃、義経は一人待ち構えます。闇の中から近付く忌わしき灯は悪しき予感です。摺針太郎兄弟(アイ)たちが先遣隊として現れます。松明の灯をたよりに門の中へ入った一人は、仁王立ちの義経に驚き飛んで帰ります。別の一人が改めて近付くと松明は斬り落とされ、続く二人目も踏み消され、三人目は取って投げ返され、斬られるという有様でした。三本の松明はことごとく消され凶兆この上ない状況です。

熊坂長範(後シテ)一味が現れ、門が開いている事を不審がります。手強い敵がいるようですと報告を受けるものの、吉次兄弟しかいないはずと更に不審がる熊坂でした。12・3歳の子がすばしっこく立ち回り、先遣隊を壊滅させ、それを見た他の者も逃げたこと事を知ります。熊坂が松明の事を聞くと、三本共火が消えたと知らされます。一本目は軍の神、二本目は時の運、三本目は我らの命、全てが消えてしまった今夜はどうしたものか。思案する熊坂に一人が「これでは鬼神でもたまりません、帰りましょう」と進言、一度は帰ろうと思う熊坂ですが、敵前逃亡したとあっては面目ないと攻め込みます。一方義経は先遣隊により手並も承知とばかり、懲りずに来るならば一人も助けることはないと待ち構えています。攻め込んだ郎党たちは全員斬られ、熊坂と義経の一騎打ちとなります。63歳の熊坂、秘術を尽くして義経に立ち向かいますが、力及ばず斬られてしまいます。

義経はワキ座で上着を脱ぎ、烏帽子を鉢巻きに替え、太刀を持ち戦支度を調えます。
先遣隊として出てくる摺針太郎兄弟は、橋掛に立ち並び談合し、館内へと入ります。橋掛から舞台(館)への入り方に工夫が凝らされています。この先遣隊が撤退し本隊が登場し、一同ずらりと橋掛に立ち並ぶ姿は圧巻です。シテは「熊坂」という曲では長刀を持っていますが、「烏帽子折」では大太刀を持っています。謡曲文中では5尺3寸(約160センチ)と言っていますが、舞台で振り回すには長過ぎるのでそこまで長くはありません。熊坂一味と義経の対決では義経の強さが際立ち、夜盗の一味は同士討ちを始める場面もあります。「夜討曽我」も夜の斬り合いですが、同士討ちはありません。夜盗と武士の違いでしょうか。熊坂の最後も独特の非常に面白い終わり方になっています。

三回にわたり「烏帽子折」の芝居展開を考えながら、終曲まで参りました。お付き合いいただきました皆様ありがとうございました。この曲は非常に演劇性が強く、初心の方でも見た目に面白い能と言えると思います。

稽古を進めながら感じた事等、次号でお話し申し上げたいと存じます。

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