Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2013.04.17過去のHana「烏帽子折」を楽しもう!その4・能の滑稽

この曲は節付けなど独特の所があり面白いと思っておりましたが、全体を通して「滑稽」という事を感じます。それは笑いを狙うものではなく、一生懸命やればやるほど浮かび上がる「滑稽さ」のようなものです。

前半、平家方に追われる牛若が元服を思い立ち、烏帽子屋に行き亭主を説得して源氏の左折烏帽子を作ってもらったり、父の形見の守り刀を返してもらったりと感動的なシーンがある一方、烏帽子屋の夫婦に驚きの事実が発覚します。それは妻が烏帽子の代にと義経から渡された守り刀を妻が見知っていたところから始まります。知っている事を疑問に思う亭主に、妻は「鎌田正清の妹だ」と言います。長い間一緒に居たけど知らなかったと亭主は答えるのですが、ちょっと待った!!!奥さんのお兄ちゃんの事知らんかったの??氏素性なんて現代よりも昔の方がよほど大事にしていたと思いますが・・・まぁ源氏縁と言いにくいと言えば言いにくかったでしょうが。

なんと言っても極めつけは後半の熊坂と郎党とのやりとりです!(意訳してます)

熊坂「摺り針太郎兄弟はどうした?」
若者「中の小男にやられました」
熊坂「あの兄弟は他の50騎、100騎にも勝るものを。う~んそいつは曲者だな」
若者「高瀬の四郎は今夜は不味いと、手勢70騎を連れて帰りました!」
熊坂「あいつは昔から臆病者だったからな。して松明の占いはどうだった?」
若者「1本目は斬って落とされ、2本目は踏まれ、3本目は投げ返され全部消されました・・・」
熊坂「それは大事! 1の松明は戦神・2の松明は時の運・3の松明は我らの命」
  「3本とも消えたとなると今夜はとてもダメだな」
若者「これでは例え鬼神でもかないません。引いて帰りましょう」
熊坂「そうだ盗みも命あっての事だ、よし帰ろう」
一同「もっともです」
熊坂「いやいや熊坂の長範が夜討を仕損じてなんの面目が立つか!全員攻め入るぞ!!」

橋掛で長い談合をしているのですが、内容はかくの如きもの。さすが夜盗!

最初に出てくる摺針太郎兄弟はアイ狂言が勤めますが、100騎に勝るとはユメユメ思えません(ご覧戴きますと納得です)。そしていざ斬り合いでは同士討ちやら見当違いに突っ込むやらという始末で、当の義経は「来るならば一人も助けてやらない」と言うありさま。50騎、100騎や5尺3寸の大太刀など独特のハッタリがあり、泥棒ならではの抜き足、差し足、忍び足のごときものもあり、見るに面白い工夫が随所に散りばめられています。
人が揃わないとできない能ですが、見るには格別に面白い能と言えると思います。

九皐会30年ぶりの上演、お楽しみいただけましたら幸いです。
どうぞ宜しくお願い申し上げます。

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