Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2013.09.02過去のHana安宅 その五

「通っていいぞ」富樫の言葉に、辨慶を先頭に油断なく通り過ぎようとする一行。
最後に強力の扮した義経が通ります。
静まり返った関所に「そこの強力止まれ!」と、富樫の声が響き渡ります。
聞く否や刀に手を掛けて戻ろうとする一同を辨慶が寸でのところで止めます。

ここまでなんとか無事に来ました、あと一手です。
しかしそれが最も重要で、最も困難なことでもありました。
辨慶に止められ一同は刀から手を離し、義経を見守ります。

辨慶は「どうして通れないのか」と声を掛け義経に近づきます。
「その強力は義経に似ている」と富樫。
核心に迫られ、追い詰められた辨慶は義経を責め立てながら大きな金剛杖で打ち据え、早く行けと促します。

何があろうとこの関を通すわけにはいかないと迫る富樫に、一同刀に手を掛け押し寄せます。
辨慶が杖を横一文字に持ち、一同が行かぬように身を挺して押しとどめます。
富樫も刀に手を掛け辨慶とその一同に迫り、まさに一触即発の状態です。
辨慶が必死に押しとどめているものの、鬼気迫る一同の勢いに押され、富樫はついに一行を通してしまいます。

一行は関から離れた所でひと休みします。
辨慶は主君義経を守るためとは言え、杖で打ち、言葉で攻め立てたことを義経に詫びます。
義経は八幡大菩薩のご託宣であったと、
辨慶の機転と、関を無事通過できたことに感謝します。

「思ふ事 叶わねばこそ浮世なれ」
と、義経は我が身を振り返るのでした。

辨慶が義経を責め立てる話はことに有名で、ドラマや芝居では大きく取り上げられます
。能では打つ所よりも、打った後に通すところに重点が置かれているように思います。
打ち据える写実性よりも、打つはめになった不運や、
さらに芝居を続け通そうとする、その複雑な心情の変化が重要に思います。
歌舞伎では富樫は気が付くものの、あまりの凄まじさに涙ながらに通してしまいます。

打ち据える弁慶、打たせる義経、共にこの不幸を嘆き悲しんだことでしょう。

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