Hana奥川恒治が綴る日々のblog

2016.12.25過去のHana若竹能「藤戸」のご案内

2月26日(日)に九皐会若竹能で「藤戸」を舞わせていただきます。流儀としましては210曲から9番選出した九番習いという、重い扱いの曲です。

源平の合戦の頃、まだ海に隔てられていた岡山県倉敷市の辺りで、源平両軍は対峙していました。水軍に乏しい源氏軍にとって、向かいの平家軍へ攻め込めないことは屈辱的な歯痒さでした。源氏の武将、佐々木盛綱は、土地の男に馬に乗って海を渡れる浅瀬を教えてもらいます。海を馬で渡ると言う前例はかつてなく、その先陣はどれ程の功であるか、計り知れないものでした。盛綱の狙いは見事的中し平家は大敗、その恩賞に藤戸の児島を賜るのでした。しかし、その戦功には人には言えぬ秘密がありました。盛綱は浅瀬を教えてくれた男を殺害し、海に沈めていたのでした。それは稀代の戦功を横取りされたくないと思う、盛綱の欲望に他ならなかったのです。

能「藤戸」はこの戦の後から始まります。
盛綱(ワキ)は藤戸の戦の先陣の恩賞として賜った藤戸の児島に、颯爽と入部します。訴訟など取り仕切る盛綱の前に、一人の女(前シテ)が現れます。女は我が子を殺され海に沈められたと訴えるのですが、盛綱は最初取り合わないのですが、女が海に沈めた男の母親であるとわかり、その時の子細を話すのでした。盛綱は涙に咽ぶ母親に、後生を弔うことを約束します。
弔いをしていると男の亡霊(後シテ)が現れます。男の亡霊は改めて殺害され海に沈められたことを再現して見せ、恨みをのべるのですが、弔いの功徳により成仏するのでした。

前半は母親の刺し違えん程の鬼気迫る憤怒と、帰らぬ我が子への絶望。盛綱へ掛かって行く所は母親の感情の絶頂と言え、前半の大きな山場となっています。後半は男の亡霊が盛綱の行為を再現して見せ、冷たい波の底が舞台全体に重くのしかかります。戦が人を変え、罪無き弱者が被害にあう不条理。800年の時が経った現代の私たちも、改めて向き合うことの重要さを感じる芝居です。
初番はくしくも親孝行息子が、出会う不老長寿の不思議な滝の話「養老」です。悲喜をお楽しみ頂ける番組となっております。お出掛けいただけましたら、幸いに存じます。


【若竹能 水之巻 第1日】

2/26(日)14時 矢来能楽堂
能『養老』永島充
仕舞『菊慈童』駒瀬直也
  『清経』観世喜正
仕舞『采女』弘田裕一
  『櫻川』観世喜之
  『鵺』坂真太郎
能『藤戸』奥川恒治

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