能のHana

コラム

2022.06.23

 かれこれ35年も前の話になりましょうか。私はまだ矢来能楽堂で住み込みの内弟子修行をしていた頃の話です。
 能面を勉強している一人の彫刻家と知合いました。彼は1年先輩の中所氏の知人で、私もお付き合いをさせていただきました。なにかと理由を付けては、お酒をご一緒させていただきました。仕事にはストイックで、ご自身には厳しい方でしたが、私たちにはいつも穏やかな笑顔で接してくれました。
 彼の面をお借りして、何度も舞台を勤めさせていただきました。舞台で自身の面が使われることを、とても喜んでくれましたので、ご厚意に甘えておりました。現在も九皐会に彼の打った面は納められていて、多くの面が彼に修理をしてもらい、その寿命を延ばしています。手掛けたものは、能面だけではなく、小物類も、中でも唐団扇の修理は絶品でした。
 その彼の訃報が届きました。突然のことに、ただ驚くばかり、楽しかった頃の思い出ばかりよみがえります。晩年、交通事故で体の自由を奪われ、厳しい闘病生活をおくられたことが残念なことでした。でも今は、自由に好きなところへ行けていることと思います。 合掌
 今日の慶福寺は情熱的な色のユリが、咲いていました。

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観世流能楽師 奥川恒治能のHana

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